チップ釣りとはヒメマス釣りのことで、北海道の支笏湖では毎年6月1日にチップ釣りが解禁になり、8月31日までの3ヶ月間が解禁期間になります。チップという言葉は、アイヌ語で「薄い魚」を意味するカパチェプの「チェプ」が語源となっており、北海道独特の呼称です。ヒメマスは銀色に光り輝く体が特徴で、ベニザケのうち海を目指さず沼や湖で暮らすものを言います。解禁期間以外にも、解禁区域や解禁時間が定められ、その範囲内であれば、遊漁料を払うことで誰でもチップ釣りにチャレンジすることが可能です。
一見難しそうなチップ釣りですが、支笏湖では地元の観光センターや温泉旅館組合によって、初心者向けのガイドツアーが準備されています。ガイドツアーでは釣り道具等も揃えているため、チップ釣りを気軽に楽しむことができます。釣り竿には鈴が付けられ、初心者でもあたりの判別が容易なほか、ガイドがボートで釣れるポイントまで案内してくれます。釣りに限らず、支笏湖の大自然も魅力の一つで、釣り方のイロハはもちろん、ガイドから支笏湖の自然等についても1から10まで教わることができ、朝食付きで至れり尽くせりのツアーとなっています。ヒメマス釣りのガイドツアー以外にも、カヌーや登山の初心者向け体験ツアーが用意されています。
初心者でもガイドツアー等を利用せずに、普通に釣りを楽しむことが可能です。ボートやミニポーターは、観光センターで2000円から3000円でレンタル可能です。ライフジャケットや釣り道具は準備する必要がありますが、仕掛けや餌は現地で購入することができます。ヒメマス釣りの経験が浅い初心者の場合、フライやルアーを使った釣り方はやや難易度が高いため、餌を使った釣り方が一般的です。
ボートの操船ができるのであれば、ルアーを使ったレイクトローリングがおすすめです。ボートを利用しない場合、岸辺でのフライフィッシングという手もありますが、岸辺でチップが釣れるのは稀です。レイクトローリングでは、根がかりに気をつけつつ操船する必要がありますが、50センチを超えるような大物がかかることもあります。20センチ前後の一般的なサイズであれば、サビキがおすすめです。サビキ釣りでは2メートル程度の竿と両軸受けのリールを使用し、仕掛けはヒメマス専用のサビキ仕掛けを使います。針は6号から8号サイズが、10本程度付いているものが無難です。オモリは竿先に合わせ、15号から20号程度を使用します。
魚を釣ることと並び、自分が釣った魚を食べることも釣りの醍醐味の一つです。ヒメマスはサケの仲間だけあって、味も良く似て美味です。傷みが早いという特徴があるため、購入したものは刺し身にはあまり向きませんが、釣った新鮮なヒメマスであれば、刺し身で食することも可能です。フライや炭火を使った塩焼きも、おすすめの料理方法です。
日本全国にはヒメマス釣りを楽しめるスポットは他にも沢山ありますが、支笏湖に人が集まるのには理由があります。支笏湖のヒメマスは、年々その数が減少していると言われているほか、年によって漁獲量が大きく変化することもあり、その希少性から北海道内でヒメマス釣りを楽しめる場所の中でも、高い人気を維持しています。また、釣り上げた魚の美味しさも人気の秘密です。解禁日にはチップ釣りを目的としたボートの数が200を超えることもあり、解禁期間を通して釣りを楽しむチップ釣りファンも少なくないため、それらのファンを対象としたシーズン券も販売されています。
ヒメマス以外にも、アメマスやニジマス、ウグイやカジカ、コイやフナといった魚も生息しているため、多くの釣り人が訪れる人気スポットです。絶滅危惧種に指定されているイトウも生息するとされ、例えるなら淡水魚の宝庫とも言えます。最深部の水深は363メートルと、日本で2番目の深さを誇るほか、周囲の山々と共に醸し出すその景観は、訪れる人々を魅了するなど観光地としても人気があります。
支笏湖でチップ釣りを楽しめるポイントは、ポロピナイ沿岸部の一部、オコタンから美苗にかけての沿岸部の一部、モラップの沿岸部です。ポロピナイの解禁ポイントは、紋別岳の山頂と丸駒大橋を結んだラインの北側の範囲になります。モラップの解禁ポイントは、紋別岳の山頂と風不死岳の山頂を結んだラインの東側の範囲ですが、千歳川の支笏湖湖口から滝の上えん堤までの範囲は禁漁となっています。美苗付近は、恵庭岳山頂と砥石山の山頂を結んだラインの西側になります。これらの解禁区域以外では、時期や時間に関係無く禁漁となっています。
解禁区域を把握することは当然として、支笏湖でのチップ釣りにはその他にもいくつかのポイントがあります。一つは風です。支笏湖では湖上に吹く風が強いことも特徴の一つで、湖とは言え波が高くなることもしばしばあります。ボートの揺れもきつくなるため、その中でいかに釣るかがポイントになります。解禁される6月上旬は、北海道では寒い日もあるため、寒さに負けないような服装で行くことも重要です。
ヒメマストローリング、いわゆるヒメトロでは魚の居場所やタナをいかにして掴むかがコツです。ボートにGPSや魚群探知機を付けるのが、効率的で手っ取り早い方法ですが、現地での情報入手が最も重要です。魚群探知機では限界がありますが、現地で直接入手した情報は確実性があり、必然的にタナの特定も容易になります。ボートの速度は速ければ良いというわけではなく、歩くくらいの超低速が最適です。竿は最低でも2本以上とし、それぞれ別のタナを流し、ヒットした方を重点的に狙うようにしますが、タナの移動に備え竿は出しておきます。また、ヒメマスの群れは早朝に上の方に上がってくるという特性があるため、早い時間帯が狙い目です。
一般的なエサ釣りの場合、エビやサシが使われますが、イクラも良く食いつきます。ヒメマス釣りでは、基本的にピンク系の仕掛けが良いと言われています。道糸はタナを見分けやすいよう、色分けされたものを使用します。サビキを利用する時は、やはりピンク系のものが無難です。ヒメマスは回遊しているため、タナをはずさないようにし、誘いも重要です。
支笏湖のヒメマスは、近年は釣れなくなってきていると言われていますが、やはり高い人気があります。ヒメマス以外にも多くの魚が生息し、解禁期間が北海道ではちょうど過ごしやすい時期にあたります。支笏湖周辺の圧倒的な景観など総合的な魅力も高く、釣り以外に楽しむポイントが多いことも、訪れる釣りファンを魅了します。チップ釣りをやってみたいけどどうして良いかわからない、という人のためにチップ釣り体験ツアーも用意されるなど、敷居は低くなっています。トローリング以外であれば、一度覚えてしまえばそう難しいものではないため、尻込みせずにまずは体験ツアーにトライしてみるのも一つの方法と言えます。