テンヤ釣りとは鉛(重り)に針を結び付けただけの仕掛けにエビなどのエサを付けただけのシンプルな釣りで元々は漁師の漁法です。その釣り方はラインにビシ重りを打った「ビシマ」を使い手でラインを操り魚とのやり取りをするという「手釣り」で見た目はシンプルな釣りです。ですがエビを海中で躍らせ喰わせ針に掛けるには技術が必要で、一般的に難易度の高い玄人好みの釣りと言われています。そのシンプルながら相応の技術を求められることから奥深い釣りの一つとなっています。
前述の通り元々漁師の漁法であった為難易度は高いです。似たような仕掛けを用いる「かったくり釣り」などを経験していなければ釣り経験者の方でも初めは手間取るでしょう。竿もリールも使用しない釣り方自体が少なく、それに慣れている方はさらに少なくなります。釣り経験者の方は基本がわかれば慣れるのは早いと思いますが、初心者の方はその仕掛けの扱いもさることながら釣りの基本でもある「タナ取り」の段階で戸惑うはずです。ですが初心者であっても「タナ取り」と「シャクリ」というこの釣り方の基本が出来れば釣果はおのずと付いて来ます。
初心者には難しいとは言っても、こういった釣りをした事が無ければ他の釣り経験者とそのスタートラインは意外と近いかも知れません。そして人によっては経験者の方よりも覚えるのが早いという事もあるでしょう。初めての釣行の際は船長のアドバイスをよく聞き、そして同乗しているであろうベテランの方の釣り方をよく観察してみましょう。
テンヤ釣りの主なターゲットは鯛とタコです(タコは若干仕掛けが違いますが)。おすすめはやはり鯛です。軽い仕掛けを早い潮流に合わせて操り、鯛の繊細なアタリを読み取りアワセ、掛かってからの豪快な引きを味わう。この一連の流れを全て自分の手でコントロールするというのは他では味わえない釣りです。エサにエビを使う事からその釣り方を少し工夫すれば多くの種類の魚が狙えるのも魅力です。底ダチをきちんと取る事で根魚の多くもターゲットになりますし、かったくり釣りの様に青物も釣れます。少しタナや誘いを変える事で多くの魚と出会える可能性があるのです。
「エビで鯛を釣る」というのはこの釣りが語源と言われています。この釣法が古くから行われていたという証です。そしてやはりターゲットとしての鯛の人気の高さがうかがえます。掛けるまでの繊細な誘いと駆け引き、掛けた後の豪快な引きは何ものにも変えられません。釣り人は自分の手に伝わる感触だけでそれを行うというところに魅力を感じるのでしょう。
ひとつテンヤというのは近年流行の兆しが見える新しい釣り方です。本家と大きく違うのは竿とリールを使用するというところです。この釣りはシャクリ真鯛釣りから派生したもので竿とリールを超ライトタックルとし仕掛けはテンヤのみという、これもシンプルなものです。超ライトタックルの軽量さと高感度を活かした釣法で、仕掛けの底ダチをしっかりと取り、仕掛けを大きくシャクってまた落とすという繰り返しの誘いで真鯛を狙います。ですから通常のテンヤ釣りと基本の釣り方は同じという事になります。道具の良しあしもありますがこちらも難易度は高めですね。
ひとつテンヤ釣りは比較的新しい釣りでその定義もあいまいな部分がありますが基本の釣り方はどれも同じです。そして手釣りでしか成立しなかった繊細な釣りが竿釣りで成立する様になったのは第一に道具の進化が挙げられます。ライトタックルから超ライトタックルへの進化がテンヤ釣りの世界をまた一つ開いたと言えるかも知れません。
この釣りの成果はほぼ竿の性能で決まると言っても良いかも知れません。テンヤは重くても10号前後と沖での重りとしてはとても軽いのでそれを操る為の高感度の竿が必要となる為です。独特な軽い仕掛けを操り鯛の微妙なアタリを掴む感度と何度もシャクリ続けるという釣り方に適したタックルの「軽さ」という性能が求められるという事です。手釣りでは指に伝わる微かなアタリを竿先で捉えるにはコマセマダイ釣りの様な胴調子の竿では無く、先調子、そして重り負荷も軽めのものを選択しましょう。リールも大きい物では使いづらい為小型の物を選択します。
竿選びのポイントは手持ちの軽さと感度です。最近はメーカーもライトタックルに力を入れていて、ひとつテンヤ釣り専用という釣竿も発売されています。竿は腕、リールは手の延長ですので、この独特の釣り方に適したタックルを選択しましょう。リールはPE0・8号を150M程巻ける物でなるべくドラグ性能の良い物を選択しましょう。
上達のコツと言えば語弊もあるかも知れませんが、この釣りのキモでもあり一番難しいのが底取りです。底が取れなければいくら誘いが上手でも鯛は釣れません。それだけにこの釣りにおいて正確な底ダチというのは重要な位置を占めているのです。底の取り方は仕掛けを投入後まだ着底しないという水深で一度ラインを止めます。そうしたらテンヤを跳ね上げるイメージで手首のスナップでラインを引きます。そうするとテンヤが一度上に引っ張られまた海に沈もうとし、そのとき「ツン」という感触があればまだ着底していないという事なので、これを繰り返しこの感触が無くなれば着底です。
底を取る難しさは手釣りでも竿釣りでも同じですが、竿釣りですと潮に流され過ぎない限り着底すればラインは止まりますので手釣りと比べれば分かり易いです。手釣りではラインが重りを打ったビシマを使うのでライン自体に重みがありラインがどんどん出ていき海底に張り付いてしまう、といった事にもなりかねませんので底取りはしっかりと覚えましょう。
テンヤ釣りは古来より受け継げられた歴史のある釣りであると同時に、現在でもその釣り方は派生と進化を続けている最新の釣りでもあります。超ライトタックルを使ったひとつテンヤは言うにおよばず、ラバージグ、カブラ針を使ったライトジギングもその派生の一つと言えるかも知れません。その奥深さ故に魅了され虜になる釣り人も多く、またその難しさ故に挫折する釣り人もまた多いという二面性もあります。まずは船長のアドバイスをよく聞き実践し、またベテランの方の仕草を盗みながら焦らず上達を目指していければその魅力に取りつかれていくでしょう。